警備員が考える「秋葉原通り魔事件」─どうすれば被害を減らせたか

珍しく仕事の話をします。


秋葉原通り魔事件」のケーススタディーを通して警備員が普段どんなことを考えているのかを知っていただければと思います。


Cace

25歳男性が運転する2tトラックが赤信号の信号待ちの列を追い越し交差点に進入、歩行者を次々と跳ねた。車から降りた男性は救護に当たっていた警官や通行人をダガーナイフで刺し、死傷させた。


まず「どんな武術の達人であってもトラックを素手で止められる人間などいない」という基本的なことを抑えておきましょう。


ここで重要なのは、警備員の仕事は警備する対象の安全を守ることであって、犯罪者をカッコよく取り押さえることではありません。犯罪者を捕まえるのは警察の仕事です。


したがって、どうやっても手の出しようがない場合、守る対象を退避させることになります。


じゃあどの段階で退避させられるか。「トラックが突っ込む直前」と「トラックが突っ込んだ直後」のふたつの時点で退避すべきと判断することができたはずです。

普段からの周囲の警戒確認

まず「トラックが突っ込む直前」です。


周囲にいた車のドライバーたちは事故発生の数秒前にはトラックの異常な動きを認識していたという報道があったと記憶しています。


男性の運転するトラックは交差点が赤信号になった際に、信号待ちしている車を追い越した。この際に反対車線に出たとも言われている。この段階ですでに道交法違反になっている可能性が高いわけです。いやな予感がするとか、何か変な気がするとかではなく、明瞭に異常な事態が起こっているわけです。


このことに気づくのがわずかでも早ければ、退避する(させる)ことができたかもしれないのです。

事故直後の確認事項

ふたつめは「トラックが突っ込んだ直後」のことです。
まず、一般論として眼前で交通事故を目撃したら、どう対処すべきでしょうか。


第一に、状況をよく確認し、覚えておくこと。

第二に、警察などへの通報。


ここで留意すべきなのは、道路交通法上、交通事故の際に通報や救護の義務を負うのは運転者である、ということです。したがって、通報や救護活動に移る前に、運転者がこの義務を果たしているかどうかを確認することが必要になるのです。


以上を踏まえて、眼前で交通事故が起こった場合に確認する事項を列挙しておきます。


○ 事故の状況(自分が直接目撃したものとそうでないものは峻別する)
○ 運転手の特徴(容貌、身長、年齢、性別など)
○ 車のナンバー
○ 運転手による通報・救護の有無


運転者の特徴や車のナンバーを覚えておくのは、ひき逃げになった場合のことを考えてのことです。


秋葉原事件でこれを確認した人がいたらどうなっていたでしょうか。おそらくナイフを持って車を降りる男性の姿を確認できたはずです。交通事故を起こしたら通報・救護の義務があるにも関わらず、ナイフを持って車から降りてきた。これもやはり誰がどう考えても異常な事態ですね。この段階で退避する(させる)ことを考えることになるわけです。


秋葉原の事件では、警察官ですら運転手の様子を確認せずに救護活動を行い、背中から刺された者がいるといいます。これは警察官の初動の不手際と言えるかも知れません。


まぁもっとも、僕とてこうしてケーススタディーで熟考しているからこういう答えが出せるんであって、その場に臨んで実際にできたかどうかは心もとない。あと知恵です。

しかしあと知恵ではあっても、次に似たような事案が起こったときの参考になると思います。